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今回は驚愕すぎる実話映画『ハドソン川の奇跡』。
巨匠クリント・イーストウッドならではの、人間の善性を信じるという静かで力強い主張が込められた傑作でした。
ハドソン川の奇跡
【あらすじ】
2009年1月。USエアウェイズ1549便は離陸直後にトラブルに見舞われ両翼のエンジンが停止してしまう。
あわやニューヨークの都市部に墜落かと思われたそのとき、機長であるサレンバーガー(トム・ハンクス)はとっさの判断で機体をハドソン川に不時着水させる。乗客155名のみならず地表の墜落被害をも回避した彼はメディアに取り上げられ一躍英雄扱いに。
しかしそんな彼に嫌疑がかかる。実は不時着水しなくても普通に空港に戻れたのではないか…つまりいたずらに乗客を危険にさらしただけなのではないか…。
欺瞞の実話映画『キャプテン・フィリップス』
実話×トム・ハンクスと言えば近作では『キャプテン・フィリップス』がありました。
でも正直この映画あんまり好きじゃないんですよね…。
ソマリアの海賊に襲われながらも毅然とした態度を貫き、他の船員を守って自身も生還した実在の船長を映画化した話なんですが、ソマリアの経済を疲弊させて海賊が台頭する土壌を築いたのは当のアメリカだと言う点がまったく描かれていません(全責任がアメリカにある訳ではありませんが)。
また劇中では英雄扱いのフィリップ船長ですが、実際は運送費削減を優先して危険海域を突っ切ったから案の定海賊被害に遭ったんだという説もあり、なんと元船員から告訴されています。
映画と事実に乖離があり、要は独りよがりで一方的なのです。映画自体はポール・グリーングラス監督がキレッキレに仕上げているだけに却ってこの独善っぷりに辟易してしまいました。
だからトム・ハンクスが今度は飛行機ネタで実話をやると知ったときには真っ先にこの『キャプテン・フィリップス』が浮かびました。また英雄押しつけキャンペーンを見せられるのではないかと思った訳です。
実話ベースなのにサスペンスフル
しかし観てみてびっくり、本作は「英雄は本当に英雄だったのか」という所から話がスタートします。いきなり『キャプテン・フィリップス』の真逆です。
「英雄は本当に英雄か」というテーマに対しクリント・イーストウッド監督は過去作『アメリカン・スナイパー』で「英雄でも人殺しは人殺し」というシビアな結論を展開していました。
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↑無音のエンドロールが怖い
と言うことは『ハドソン川の奇跡』も実はサレンバーガー機長は犯罪者でしたというオチに向かうのか。まさか『フライト』のデンゼル・ワシントンみたいな糞野郎であることが明かされていくのか!?
実話なのに全然先が読めず、のっけから引き込まれていきました。
※ ネタバレ警告※
以下の記事にて作品の結末に触れています!未見の方は注意!
運命の瞬間
機長目線、観客目線、副機長目線と次々視点を変えて着水の瞬間を繰り返し再現する構成にも緊張感が煽られます。
エンジントラブルから着水までわずか200秒。この200秒の緊迫が見どころですが、個人的に最も印象深かったのは着水後、徐々に沈む機体に乗客が取り残されていないかギリギリまでチェックし続けるサレンバーガー機長の姿でした。そして機長は何も言わず当たり前のように機体に残り続け、最後の最後に救助艇に乗り込みます。
どうしてもセウォル号沈没事故が連想されます。
沈みゆく船のなか、他の乗客(子供)を見捨ててパンツ一丁で自分だけさっさと逃げた船長。船長一人がパニックでトチ狂ったのかと思いきや他にも十数名の船員が乗客を見捨てて自分だけ逃げていました。
沈没の恐怖に負けて恥も外聞も無い行動を取ってしまうのは理解できなくもないです。もし自分が同じ立場だったら毅然としていられたかは分かりません。
でも、世の中には実際に子供を見捨てて一人で逃げる船長が居ることが事実なのです。それを先に知っているからこそ『ハドソン川の奇跡』の美談性が際立ちます。
でも甘ったるい美談で終わらないのが本作の凄い所。
本質はひとりの人間
英雄に祭り上げられて悪い気はしないサレンバーガー機長でしたが、莫大な損害補填を何としても支払いたくない保険会社によって徹底的なアラ捜しに曝されます。
そして保険会社は見つけてしまう訳です。着水の瞬間、実はエンジンは動いていたという可能性を。
もしそれが真実ならば今の熱狂は自分への批判に一変するだろう。そうなったら自分も家族もオシマイだ。サレンバーガー機長にかかる重圧は半端なものではありませんでした。映画はこの重圧をしっかり尺をとってつぶさに描いていきます。
「世紀の不時着を成功させた英雄」ではあっても同時に「ひとりの人間」に過ぎないという事実。その表現に徹底的にこだわっています。これは映画の原題がサレンバーガー機長の愛称『Sully』であることからも伺えます。
何が本当の奇跡だったのか
結局、安全委員会の追及を理論立てて論破したサリー機長。不時着水は最適の判断だったことを証明します。
安全委員会のコワモテも観念し「不時着水は奇跡だった。乗客155名が全員無事だったのはあなたのお陰だ」と認めます。しかしサリー機長は「それは違います」と一蹴。
「みんなのお陰でした。ほかの乗務員や乗客、救助に駆け付けたフェリーの船長、警察、管制官…みんなのお陰なのです。」
なんという誇り高い人格でしょう。私だったら「散々ビビらせやがって!許さん!」と暴れだすこと必至。
サリーのこの姿勢こそまさに人間の善性の象徴。 そしてこのセリフこそ本作の核です。
不時着水から24分で全員救助された事実を伝えつつ映画は終わっていきますが、実は「ハドソン川の奇跡」とはこの24分間のことなのでした。
サリー機長の成し得た偉業を再現するだけでなく、だから人間は素晴らしいんだという普遍的なテーマにも主張を及ぼす本作。巨匠中の巨匠クリント・イーストウッドの底力を堪能できる力作です。
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