この世で最も恐ろしい姿の怪物とは?
エイリアンシリーズのゼノモーフはかなりの有力選手ですね。間違いありません。
二―ル・ブロムカンプ監督の短編『Zygote』に出てくる人肉100体分合体おばけもインパクト絶大でした。
伽椰子や貞子らのジャパニーズホラー勢も見逃せません。
様々な怪物が候補に挙がりますが、やはり外せないのは自分自身の姿という案でしょう。
自分そっくりの姿をしている、悪意に満ちた「何か」…。
いわゆるドッペルゲンガーは世界中で語り草になっている超メジャーな超常現象で、映画のモチーフとしても定番です。
『嗤う分身』とか。
『複製された男』とか。
そんな前置きを垂れ流しつつ、今回はドッペルゲンガー映画の新たな秀作『US/アス』を紹介したいと思います。
※2021年3月現在の情報です
US/アス
2019年 アメリカ
監督:ジョーダン・ピール
出演:ルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デューク
夏のビーチを満喫しようと、別荘に遊びに来たウィルソン一家。
楽しいバカンスを過ごす一家だったが、その夜何者かに強盗に入られ窮地に陥ってしまう。
しかも強盗らは全員、ウィルソン一家と瓜二つの容姿をしていた…。
襲撃者は言う。
「このときをずっと待っていた」と…。
評価 C
面白かったよぉ~。
何が面白いって、ピール監督のデビュー作『ゲット・アウト』と同じく恐怖と笑いの配分が絶妙なんですよね。
『ゲットアウト』では、主人公の黒人青年が徐々に窮地に陥っていく様子がホラー感たっぷりに描かれる一方で、その親友の保安検査員のあんちゃんが外から四苦八苦して主人公を助けようとするノリは完全にコメディ映画のそれでした。
このギャップがうまいこと機能して、すっごく楽しいエンターテイメントに仕上がってたんですよね『ゲット・アウト』。
ホラー映画なのに、楽しい。
人種差別問題の映画なのに、やっぱり楽しい。
この点が『ゲット・アウト』をして単なる "斬新なホラー映画" でも "人種差別問題への模範的な啓蒙映画" でもなく "超おもしろい映画" という評価を勝ち取らしめたヒケツだと思ってます。
この作風は今回の『Us/アス』でもばっちり踏襲!
恐ろしいのにちょっと笑えるという絶妙なラインが奇跡的なバランス感覚の上に実現されています。スゴい!
たとえば襲撃者から身を守るためお父ちゃんが
「そうだ、ホームアローンみたいに家をワナだらけにしようぜ!」
と真顔で提案するシーン。
お母ちゃんは「バカかアンタはー!」とマジギレし、
娘たちは「…ホームアローンって何?」と時ならぬジェネレーションギャップをかます。
テンポ良すぎ。最高です。
襲撃されるのに慣れてきて
「俺はひとり殺したぞ!」
「いや私はふたり殺した!だから私の方がえらい!」
とか張りあい始めるシーンも爆笑。
アレクサもどきが気を利かせてアレコレしてくれるシーンも、心に響くしょうもなさです(誉め言葉)。
ふざけ倒しているワケではなく、ホラーシーンが本気で怖いからこそ輝く合間のコミカル加減…(・∀・)イイ!!
さすがピール監督。もとコメディ番組ディレクターの面目躍如です。
散々な目に遭うウィルソン一家。
でも案外したたかに反撃したり。
でもね~…。
正直今回は『ゲット・アウト』ほど乗れなかったんですよ…。
何が良くなかったって、どうしても『Us/アス』が格差社会の話だと思えなかったんです。しっくりこない点が多すぎるんですよ。
そっくり強盗の正体は、秘密裏に製作されていたクローン人間 "テザード" たちだった…!という設定がとにかく突飛すぎます。
誰が?
なんのためにそんなものを?
どこから予算を割いて?
実験は失敗して施設ごと見捨てられた…って言うけど、じゃあ電力とかどうやって維持してたの?
それにいくらアメリカの地下に見捨てられた地下施設が多くても、あの人数は収容できないでしょ…。
だいたい何十年もウサギの生肉だけを食い続けてたら、かっけとか壊血症とかでバタバタ死んでるよ…太陽光も浴びれないんじゃなおさら。
とにかくテザードの設定が突拍子も無さ過ぎて、どこまで額面通りに捉えていいのか分からない。
最初からファンタジー映画のつもりで見ていたら印象は変わったのかも知れませんが…。
「格差」の主役であるテザードたちの設定がかくもフゥ~ンワリしてるのでまったく感情移入できず、いきおい「これは社会に問題提起している映画なんだ!」と言われても「…そう?」としか思えないという顛末です。
とにかくこんなズッコケ感を出すくらいだったらテザードの正体はまったく明かされないままの方がいくぶんマシだったと思います。
「そんな枝葉末節はいいんだよ!もっと格差社会への警鐘としての本作を評価しろよ!!」
とか言われてしまいそうですが、どうしても乗れなかったんだからしょうがない。
とは言えラストのオチにはグッと来ましたよ。
持つものと持たざるもの…。
富裕層と貧困層…。
その境界は限りなくあいまいで、個人の生き方や出自などまったく無意味。
すべては「たまたま」でしかない。
金持ちになるのか、貧乏人になるのかは偶然で決まるのだ…。
残酷かつ衝撃的な事実を暴き出す見事などんでん返しでした。
襲撃者を撃退するうちに、主人公のアデレードの方がケダモノじみてくる演出もこの主張にリンクします。
外からやって来る襲撃者が混沌で、既存の体制を守る者が秩序である…なんて誰に言えるんだって話。
良い意味でも悪い意味でも、誰もがたかが人間に過ぎない――。
ここだけは監督の主張がダイレクトに響きました。
グッドです。
金持ちは自分が裕福なのは自分の努力のおかげと思っているが、実際はぜんぶ偶然の産物。
鏡のどっち側に立っていたのかの違いしか無いんじゃけぇ。
ラストはテザードらによる大陸横断お手てつなぎ行列の遠景で締めくくられます。
この「お手てつなぎ」は1986年に実在したチャリティーイベント、ハンズ・アクロス・アメリカの模倣。
映画秘宝の受け売りですが、このハンズ・クロス・アメリカはイベントとして惨憺たる大失敗に終わったとか。
イベントの運営資金を直接福祉に回した方が(少なくとも結果的には)よっぽど効率的だったはずなのに…こんなウケ狙いの企画をぶちあげ、しかも失敗する。
この無意味さ。この虚しさよ。
いわばハンズ・クロス・アメリカは「貧困層に対するアメリカ人の、見て見ぬふりの象徴」と言えそうです。
そのお手てつなぎを、最下層の人間たちであるテザードが実践しているところに強烈な皮肉が効いていますね。
タイトルの『Us』だって「私たち」と「United States」のダブルミーニングみたいだし、とにかく「この映画観ているキミたち!今のままで良いワケないってわかっただろ!!」という叫びはしっかり聞こえました。
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