小泉八雲の著作に『茶碗の中』って話があります。
幽霊と相まみえるするおサムライの話。
名作として知られる作品ですが、有名なそのオチは話の途中でいきなり終わるというもの。
当然「この後どうなるんだよ!」とか「一体どういう意味だったんだよ!」などという疑問が噴出します。が、読者にそう思わせるところまでが1セットの物語なのです。
敢えて尻切れトンボなところで終わらせれば、恐怖は読者の想像の庭で勝手に育っていく…。スゲー手を考えついたもんですよね、昔の人はやっぱ偉大だね!
そんな話を前置きしつつ、今回はJホラー『鬼談百景』を紹介します。
本作は都市怪談の女帝・小野不由美による原作を、気鋭のホラー映画監督たちが映像化したオムニバス作品。
Jホラーの快作『残穢 -住んではいけない部屋-』の派生作でもあります。
鬼談百景
2016年 日本
監督:中村義洋、白石晃士、安里麻里、岩澤宏樹、大畑創、内藤瑛亮
出演:竹内結子
評価 C
小野不由美の原作はタイトル通り百物語がモチーフなので、本作はそのうち10編をピックアップして映像化した短編集ってことになります。てことは正確には鬼談十景ですね。
各話の監督は内藤瑛亮をはじめ豪華な顔ぶれ。いずれのエピソードも相当恐い仕上がりです。
くわえて前述の『茶碗の中』よろしく、どの話も途中でぷっつり終わるのがなおさら怖い。
「えっどういうこと!?」という歯切れの悪さが不気味さをブースト。百物語ならではのワビサビが効いています。
また竹内結子による抑揚控えめのナレーションも恐怖を増幅するナイスなスパイス。同時に『残穢』とのリンクも意識させるニクイ演出となっています。
これはもう小野不由美バースと言ってもいいんじゃないでしょうか。
尾崎先生や陽子を呼んできてもいいんじゃないでしょうか。だめですか。
せっかくなので印象に残った怪談をいくつかご紹介。
まずは大畑創監督の『赤い女』。ビジュアル的に一番ショッキングな話でした。
カツーン…
カツーン…
と不気味な足音を響かせてゆっくり近づいてくる"赤い女"が超不気味…。
そんなゆっくり移動系おばけと思わせつつ、ラストで意表を突くムーブに出る演出はインパクト絶大。シンプルに怖いドッキリ系の一篇でした。
同じ大畑創監督の『一緒に見ていた』も秀逸。こちらは逆に"静"のコワさを追求した一篇。
何をするでもなく、ただ背後にぴったりくっついてくる幽霊が死ぬほど不気味。
安里麻里監督の『尾けてくる』もグッド。
学校の帰りに首吊り自殺を目撃してしまう女子高生の話なのですが…首吊り直前の男が「手も足も動かさず、直立不動のままゆっくり体だけ振り返る」シーンが静かに怖い。
こういう、一見普通なんだけど動きだけが不自然ってイヤですよね。『回路』の幽霊を思い出す。
『ミスミソウ』でスピード感あふれる残虐描写を披露した内藤瑛亮監督は、本作では『どろぼう』でじっとり系の怪談に挑戦。意外。
ホラーと言うより「うちのお隣さんってサイコパスかも…」的な不安を映像化した作品で、農村版のヒッチコック『裏窓』って感じでした。
内藤監督にはもっと目ん玉に釘が刺さる系のホラーを撮りまくって欲しいと思う今日この頃。
トリを務めるのはみんな大好き白石晃士。『密閉』。
クローゼットのドアを何度閉めても、いつの間にか半開きになってしまうというお話。
"怖い話"の王道展開に「けっきょく一番恐いのは人間」的な着地点と笑いを盛り込むところがいかにも白石監督。
と言う訳で『鬼談百景』の感想は以上です。
Jホラーの天井を押し上げる大傑作ではないけれど、コワさと面白さのツボを押さえた良作でした。
R.I.P.竹内結子
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『鬼談百景』原作。
現代に息づく怪異への、小野不由美の鋭い観察眼が冴える。